等身大のエル・ドラド―豊島園

30年前の夏、私はまだ20代の女の子でとしまえんの流れるプールにいた。
ボーイフレンドと一緒だった。
アメリカンコミックの黒猫フィリックスの浮き輪につかまって流れに身をまかせながら、水をかけあったり、潜ったり、笑い転げて大騒ぎしていた。
大騒ぎしていたのは私達だけじゃなかった。
プールはぎゅうぎゅうの大にぎわいで、皆が同じようにじゃれあっていた。
家族、友達、恋人同士、笑顔でいっぱいだった。
ふざけながら、どこを見ても目に映る屈託のない明るい喜びの表情に驚いた。
こんな風に人は心底笑うんだ、笑いそのものであるかのように、、
私もたがが外れたように笑って楽しんだ。
水の滑り台ハイドロポリスは行列で一回しか滑れなかったか、全く滑れなかったかよく覚えていない。
楽しくて気にもしなかった。
明るい水色を背景にカラフルな水着や浮き輪、ビーチボールがひしめく。
陽気な夏の色彩に後ろ髪を引かれながら帰った。
ああ流れるプールって面白いね。またこようね。と話した。

その後あちこちの流れるプールや遊園地に行ったけど、そのときほどの盛り上がりはなかった。
年をえて流れるプールの記憶は大切な青春の思い出となった。 
なぜあんなに楽しかったのかなと振り返ったとき、それはとしまえんだったから、と思う。

としまえんはデパートの屋上や公園の遊具の延長線上ゴールにある、昔ながらの遊園地だった。

日常からさほど解離することはなく、きらびやかなキャラクターが誘う感動や憧れを提供されることもない。
格好良さとは縁遠く、普段着のよろこびが自然体で重なりあっていた。

今回の閉園は形態は違うが、失なわれた昔の目黒雅叙園を連想させる。
欧米的なエンタメ遊園地にするより、出来るだけ残してリニューアルした令和のとしまえんに変えて欲しかった。

皆が愛した古い回転木馬はどこに行くのだろう。
胸踊るファンタジーの音を聞きながら、いつかまた屈託のない笑顔に会いたい。

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