東村山の星

学生のころ、東村山に住んでいました。
私は19歳の美大生、初めてのアパート暮らし。
緑に囲まれた1階の部屋、隣にはステテコ姿で盆栽を丹精するおじいさんがいた。

晴れた冬の日に鷹の道から多摩湖方向を望むと清らかで美しい山がみえた。
富士山ってあんな感じなのかな・・・いや、あれが富士山なんだぁ~!と発見した。
駅のわきにはボウリング場。コンビニはなかったけど美味しいおにぎり屋さんがあった。今でも忘れられない味。
古本屋さんではモンローやデートリッヒの本を100円で買った。
線路の向こうに足をのばすと、何でも揃う大きなイトーヨーカ堂。
食べ物、下着、アイリスの花束、キャシャレルのスカート、ワースの香水を買った。
東村山公民館では黒澤明の7人の侍を見て、図書館にいりびたり本を読んだ。
図書館の近くのデニーズはアメリカ小説に出てくる店みたい。
バイト代を貯めて勇気を出して入ったら、サリンジャーの小説に出てくる料理があった。
秋ちかくなると、山梨の農家がトラックでぶどうや桃を売りに来た。
竹かごをもって買いにいった。美味しくて新鮮だった。

東村山ではなにもかもが初めてだった。
自分に花を買うのも、一人レストランも、黒澤映画も、香水も、どきどき、ウキウキ、おどおど、はらはら、そして若さゆえの強迫観念に悩まされた。
思いつめて病気になったら、友達が励ましにきてくれた。
20歳の誕生日は、アパートの部屋で美大仲間とホールケーキをたべた。
いちごで囲んだケーキの真ん中に詩人の言葉を入れてもらった。
 ”音楽のほうへ、、、”
いろんな友達がいた。おしゃれな友達がうらやましくて、髪をベリーショートにしたりロングヘアにしたり、ボロいモンペをはいたり綺麗なスカートをはいたり。
自殺願望の先輩を止めてくれ、と友達に頼まれたこともあった。生きるための嘘をついた。
グレングールドやラフマニノフ、フリクションやボウイがいつも流れていた。
いろんなことをやりながら、何も分からないまま自分だけの扉を探し続けた。
雨の夜、オリンパスで西武線の景色を撮った時に、やっと小さな扉をみつけた。
ボエームと若さを生きる私の頭上で、東村山の星はいつも陽気に輝いていた。

志村けん氏のご冥福をお祈りします。
東村山は、いいところです。

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